「かくかくしかじか」を読んで、恩師とどうやって巡り会うかを考える
マンガ大賞っていうのがあって、その今年の大賞に「かくかくしかじか」という漫画が選ばれたのだそう。
まあ、「選ばれたのだそう」なんて他人行儀に言いましたが、実は僕も、この漫画が大好きです。さきほど2日前に発売された最終巻をファミレスで読んでは、ぼろっぼろに号泣しちゃうくらい。違う席の大学生に見られても、むしろ「感動する僕の姿を見て、この漫画に少しでも興味を持ってくれたら」との気持ち悪い考えが浮かぶくらい、この漫画は“いい漫画”です。
この漫画のあらすじを簡単に言うと、内容は、作者「東村アキコ」さんの自伝的な話になります。
「一体、どうやって彼女は漫画家になったのか?」
という、ほんと簡単にいっちゃうと、よくあるサクセスストーリーなんですが・・・・・・けど人生ってのは、自分ひとりで「こうしたら、こうなりました!」と言えるようなものでは到底ないわけです。
そこには親がいて、友人がいて、そして人によっては「恩人」と呼べる人がいて、いまの人生があるわけです。
高校3年生になったアキコさんは、ある日、「漫画家になるために、美大に行きたい!」と、友人の紹介で絵画教室に通い始めます。宮崎のぬるい環境で「うまいうまい!」と自意識ばかり伸ばされてたため、絵画教室にいくバスの中では「天才が来たって、騒がれたらどうしよう」なんて完全に思い上がっています。
もう完璧に天狗です。アキコさん本人の言葉でいえば、完全なる「クソバカ」です。
しかし、このプライドは、絵画教室で自作の絵を見せた瞬間に一瞬にして崩壊します。
「はい全然下手くそでーす。これもダメあれもダメ、ダメダメダメダメダメ・・・・・・って、おまえいま何年か!? 3年!? 3年でこんな下手くそじゃ、おまえどこも受からんど!! 美大行くつもりなんかこれで!?」
持ってきた絵を竹刀でバシバシと叩かれ、初対面にしてありえない暴言を吐かれる。これが、この絵画教室の先生、アキコさんと人生の恩師となる「日高先生」との出会いでした。
それからアキコさんは、日高先生の「絵は毎日描かんとダメや。一日も休むな。描け、描け、とにかく描け!」という号令のもと、毎日必死で絵を描き続けるわけです。
描いて、描いて、描いて。
しかし、描けなくなり、爆発し、もう無理だとへたりこみ・・・・・・が、そのたびに竹刀でしばかれ、顔を鷲掴みにされ、キャンパスに顔を押しつけられ、
「描け、描け、描け!!!」
と、また先生に描かされ、蹴り上げられ、歩かされる。
先生は、ただひたすら真っ直ぐに、本気で、生徒を美大へ行かせるために。およそ無料奉仕のような状態で、生徒の、アキコさんの背中を、唯一無二の存在力で押し続け・・・・・・
まあ、すごい先生なのです。
これだけ読むと、ただの体育会系のスパルタ教師のようにも見えるかもしれません。けど、それだけじゃないのです。先生の、その作為なき本気さと、自らを顧みない生き方を見てると、不思議と、なにか懐かしい空気に包まれたような気になってくるのです。
「あ、人間だ」
と、久しぶりに本物の人間に出会ったような、心の奥深いところが疼くような、そんな気がしてくるのです。
いろんな人が、この漫画について書いているのを読みましたが「もし自分が、日高先生のような人に出会えてたら・・・・・・」と、みんな口を揃えて言っていました。
ああ、こんな人に会えていたらと、もちろん僕も思います。
けど、どうなんでしょう。
もし、いまどきの人が日高先生のような人に出会ったところで、素直に、その教えを受け止めることが出来るのでしょうか?
たぶん無理なんじゃないかなあ。まだ固まってない10代の若い子ならまだしも、「こんな先生に出会えてたら」と言う人に限って、仮にいま出会っても、きっと気付きもしないんじゃないでしょうか。
出会えないのには、きっと、出会えない故の理由があるのでしょう。
思えば、いまどきの○○教室とか、○○勉強会のほとんどは、言ってみれば商売です。お客さま商売です。お客さまに、来ていただかなくてはならない。お客さまに、気持ちよく帰ってもらわなくてはならない。また来てもらうためにも。何度でも来てもらうためにも。
そんなところに、果たして、恩師たる先生がいるのでしょうか?
もしかしたら、自分をボコボコに打ちのめしてくれる人こそが、本当の意味で恩師たり得るのではないでしょうか?
仮に勉強会で気持ちよく帰るとき、おそらく僕たちは、何も学んではいません。
もし気持ちいいとしたら、それは「情報を得る」という、まるで物欲が満たされると同じようなものです。自尊心を膨らませてるのです。
本当の“学び”とは、混乱をともなうものです。衝撃をともなうものです。自我を揺さぶられ、吐き気を催すことだってあるくらいの、いままでの自分を壊す行為なのです。
ただ、そんなことをする先生は、初対面ではまず好かれない。一度会ったら、もしかすると二度と会いたくない人かも知れない。
けど、実はそんな人こそが、僕たちの運命を動かすために現れた天使なのかもしれない。過去に出会ったあの人が、あの人が、あの人が、もしかしたら・・・・・・。
僕は、赤ちゃんを見ると、たまにものすごい恐怖を感じることがあります。みなさんはそんなこと無いとは思いますが、ともかくそんな感じで、天使と会うのは、実は悪魔と会う以上に怖いものです。