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UMA(未確認生物)現る

地獄

近所にオペラ歌手が住んでいるらしい。
 
 
なぜ「いる“らしい”」なのかというと、未だその姿形は未確認なのだが、時折、まるで生命エネルギーの発露もしくは発情期って感じの発声音が「ほっ、ほっ、ほっ、ほっ、ほっ、ほ~っ」と近所中に響きわたるからである。
 
 
日が暮れ、空が鮮やかな紅緋色に染まり、胸から軽い空気が少しずつ抜けていくようなあのさむしげな時間帯に

 

「あーあーあーあーあー」

 

とドミソミド音階が鳴り響き、一体どうなってるんだこの世界はと僕を混乱に貶めるからである。
 
 
ともかく、近所にオペラ歌手もどきのUMA(未確認生物)がいるのは間違いない。そしてその鳴き声から推測するに、そのUMAは50代を過ぎたおよそ小太りな女性である可能性が高い。
 
 
まあ、とは言っても、べつに悪さをするわけじゃないし気にするまでもない。
 
朝、さあゴミを出しに行くぞというときに、背後からいきなり「ハレルヤ!」って挨拶されたら怖いなあとは思うけど、そんなこともないし。気づくと人のゴミを漁ってるとか、人の洗濯物を着てるとかだったら嫌だなあ引っ越したいなあと思うけど、そんなこともなく。
 
することといえば、時折なにかを受信したような「ほっ、ほっ、ほっ、ほ~っ」と仲間を呼ぶ挙動を起こすだけで、まあ実害はないからいいやと、そんなわけでこれまで真剣な探索もせず野生のまま放置をしていたわけですが。
 
 
これが今朝の4時に、突然とリオオリンピックの応援を始めたから大変です。
 
 
「え? 地震?」って思って目を覚ましたら、それ以上のとんでもないことが起きてたわけです。ただの「ほっ、ほっ、ほ~っ」とは比べものにならない情感豊かな咆哮が、まるでWifiかというくらい野を越え、山を越え、壁を越え、家で普通にテレビを見るよりも立体的なサラウンドで僕の耳に響いてきたのです。
 
そしてもちろん近所中にも「いけぇ~!」だ、「おしい~!」だ、「やめて~!」だ、「あっ、あっ、あっ、あ~~~っ!」だ、「あ~~~ん、もう・・・・・・」との声が響いてって、おいおいなんなんだこれは。
 
 
家の布団で平和に寝てたはずなのに、なのにいきなり起こされ、

 

「はは~ん。このオペラの人は、夜の営みもきっと声が大きいに違いない」
 
って、なんでこんなことを寝起きの瞬間に考えてるんだ僕は。ああ、ごめんなさい、ごめんなさい。たのむから早く終わってください。すいません、もう勘弁してください・・・・・・

 

と、布団の上でごにょごにょ念仏を唱えてたら「やったーーーー!!!!」という、花火でいう4尺玉がついに登場って感じの、一際どでかい咆哮爆発ののちに一瞬の静けさに包まれ、ふとあたりからそれまでかき消されてた爽やかな小鳥の声が聞こえてきました。
 
 
やったー、おわったーと僕も密かに拳を握りしめました。なんの競技か知らないけど、おそらく僕の渾身の応援が実って日本が勝ったのでしょう。

 

ああよかった。さて寝よう。おやすみなさい。
 
神さま、朝から恐ろしい夢を見ないようどうか僕を守ってください・・・・・・といってまた安らかに眠るはずが、なぜか目がギンギンに冴え、もう二度と眠れませんでした。